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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
「解ってたまるものか。」父の手がまたかすかに顫えた。
二人が、敵同士のように黙って相対峙している裡に、二三分過ぎた。
「光一!」父は改まったように呼びかけた。
「何です!」兄も、それに応ずるように答えた。
「お前は、今年の正月俺が云った言葉を、まさか忘れはしまいな。」
「覚えています。」
「覚えているか、それじゃお前は、此の家にはおられない訳だろう。」
兄の顔は、憤怒のために、見る/\中に真赤になり、それが再び蒼ざめて行くに従って、悲壮な顔付になった。
「分りました。出て行けと仰しゃるのですか。」怒のために、兄はわな/\顫えていた。
「二度と、画を描くと、家には置かないと、あの時云って置いた筈だ。お前が、俺の干渉を受けたくないのなら、此家を出て行く外はないだろう。」父の言葉は鉄のように堅かった。
瑠璃子は、胸が張り裂けるように悲しかった。一徹な父は、一度云い出すと、後へは引かない性質だった。それに対する兄が、父に劣らない意地張だった。彼女が、常々心配していた大破裂がとうとう目前に迫って来たのだった。
父の言葉に、カッと逆上してしまったらしい兄は、前後の分別もないらしかった。