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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
「此年になるまで、こんな侮辱を受けたことはない。貧乏はしている。政戦三十年、家も邸も抵当に入っている。が、三十万円は愚か、千万一億の金を積んでも、娘を金のために、売るものか。」
父は、傍の見る眼も、傷ましいほど、激昂している。年老いた肉体は、余りに激しい憤怒のために今にも砕けそうに、緊張している。瑠璃子も、胸が一杯になった。父の怒を、尤もだと思った。が、その怒を宥むべき何の言葉も、思い浮ばなかった。
が、それに付けても、杉野子爵は、何の恨があって、こうした侮辱を、年老いた父に与えるのだろう。そう思うと、瑠璃子の胸にも、張り裂けるような怒りが、湧いて来た。が、それが恋人の父であると、思い返すと、身も世もないような悲しみが伴った。
「彼の男は、金のために、あんなに賤しくなってしまったのだ。政商連と結託して、金のためにばかり、動いているらしいのだ。今日の縁談なども、纏まれば幾何と云う、口銭が取れる仕事だろう。ハヽヽヽヽ。」父は、怒を嘲に換えながら、蔑むように哄笑した。
「何でも、今日の縁談の申込み手と云うのが、ホラ瑠璃さんも行ったゞろう。此間園遊会をやった荘田と云う男らしいのだ。