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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

そう思うと、瑠璃子は、女ながらにその小さい胸に、相手の卑怯を憤る熱い血が、沸々と声を立てゝ、煮え立つように思った。

父の借財は多かった。藩閥内閣打破の運動が、起る度に、父はなけ無しの私財を投じて惜しまなかった。藩閥打破を口にする志士達に、なけ無しの私財を散じて惜しまなかった。父が持って生れた任侠の性質は、頼まるゝ毎に連帯の判も捺した。手形の裏書もした、取れる見込のない金も貸した。そうした父の、金に対する豪快な遣り口は、最初から多くはなかった財産を、何時の間にか無一物にしてしまった。が、財産は無くなっても、父の気質は無くならなかった。初めは親類縁者から金を借りた。親類縁者が、見放してしまうと、高利貸の手からさえ、借ることを敢てした。住んでいる家も、手入は届いていないが、可なりだゞっ広い邸地も、一番も二番もの抵当に入っていることを、瑠璃子さえよく知っている。

金力と云ったものが、丸切り奪われている父が、黄金魔と云ってもよいような相手から、赤児の手を捻じるように、苛責られる。そう思って来ると、瑠璃子はやるせない憤りと悲しみとで、胸が一杯になって来た。金さえあれば、どんな卑しい者でもが、得手勝手なことをする世の中全体が、憤ろしく呪わしく思われた。