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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
そう云って、言葉を切った、がいかにも恐縮に堪えないと云う口調で、
「ところが、その申込が杉野さんの思い違で、と云うよりも、あの方の軽率から、私がお嬢さまをお望み致したなどととんでもない。ハヽヽヽ。御立腹遊ばすのは当然です。五十に近い私が、お嬢さまに求婚するなどと笑い話にもなりません。実は、当人と申すのは私の倅、今年二十五になります。亡妻の遺児です。」
一寸殊勝らしく声を落しながら、
「その倅とても、年こそお嬢様に似合いでございますが、いやもう一向下らない人物です。が、若し万一お嬢様を下さるような事がありましたら、これほど有難い――私の財産を半分無くしても惜しくはない――仕合せだと思いますのですが。が、そのお話は、兎も角、閣下の御債務は凡て、私に払わせていたゞきたいと思いましたから、一月あまりも心掛けて、もう大抵は買い蒐めた積りでございますが、縁談のお話などとは別に、これ丈は私の寸志です。どうか御心置きなく、お受取り下さるように。」そう云いながら、父の負うている借財の証書の全部を一つの袋に収めて父の前に差し出したらしかった。
虚心平気に、勝平の云い分を聴けば、無躾なところは、あるにせよ、成金らしい傲岸な無遠慮なところはあるにせよ、それほど、悪意のあるものとは思われなかった。