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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
が、瑠璃子の心配は無駄だった。父は相手が長々と喋べり続けたのを聞いた後で、二三分ばかり黙っていたらしいが、急に居ずまいを正したらしく、厳格な一分も緩みのない声で云った。
「いや、大きに有難う。あなたの好意は感謝する。が、考うる所あって、お受けすることは出来ない。借財は証文の期限通に、ちゃんと弁済する。それから、縁談の事じゃが、本人が貴方であろうが御子息であろうが、お断りすることには変りがない。何うか悪しからず。」
父は激せず熱せず、毅然とした立派な調子で云い放った。父の立派な男らしい態度を、瑠璃子は蔭ながら、伏し拝まずにはいられなかった。何と云う凜々しい態度であろう。どんなに此の先苦しもうとも、あゝした父を、父としていることは、何という幸福であろうかと思うと、熱い涙が知らず識らず、頬を伝って流れた。
真向から平手でピシャッと、殴るような父の返事に、相手は暫らくは、二の句が、次げないらしかった。が、暫らくすると、太い渋い不快な声が聞え始めた。
「ふゝむ。これほど申し上げても、私の好意を汲んで下さらない。これほど申上げても、私の心がお分りになりませんのですか。