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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
が、父は久し振に、旧知の尋ねて来たことを欣んだ。溺るゝ者は、藁をでも掴むように、窮し切っている父は、何処かに救いの光を見付けようと、焦っているのだった。その男は、今年の五月来た時とは、別人のような立派な服装をしていた。
「何うだい! 面白い事でもあるかい!」
父は、心の中の苦悶を、此の来客に依って、少しは紛ぎらされたように、淋しい微笑を、浮べながら応接室へ入って行った。
「お蔭さまで此の頃は、何うにかこうにか、一本立で食って行けるようになりました。もう、二年お待ち下さい! その中には、閣下への御恩報じも、万分の一の御恩報じも、出来るような自信もありますから。」
そう云いながら、得意らしく哄笑した。此の場合の父には、そうした相手のお世辞さえ嬉しかった。
「そうかい! それは、結構だな、俺は、相変らず貧乏でのう。年頃になった娘にさえ、いろ/\の苦労をかけている始末でのう。」
父はそう云いながら、茶を運んで行った瑠璃子の方を、詫びるように見た。
「いや、今に閣下にも、御運が向いて来る時代が参りますよ。此の頃ポツ/\新聞などに噂が出ますように、若し××会中心の貴族院内閣でもが、出来るような事がありましたら、閣下などは、誰を差し措いても、第一番の入閣候補者ですから、本当に、今暫くの御辛抱です。