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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
「お帰りなさいまし。」と、云う瑠璃子の言葉も、しわがれたように、咽喉にからんでしまった。瑠璃子が、父の顔を見上げると、父は子に顔を見られるのが、恥しそうに、コソ/\と二階へ上って行こうとした。
父の狼狽したような、血迷ったような姿を見ると、瑠璃子の胸は、暗い憂慮で一杯になってしまった。彼女は、父を慰めよう、訳を訊こうと思いながら、オズ/\父の後から、随いて行った。
が、父は自分の居間へ入ると、後から随いて行った瑠璃子を振り返りながら云った。
「瑠璃さん! どうか、お父様を、暫らく一人にして置いて呉れ!」
父の言葉は、云い付けと云うよりも哀願だった。父としての力も、権威もなかった。
それにふと気が付くと、そう云った刹那、父の二つの眼には、抑えかねた涙が、ほた/\と湧き出しているのだった。
父が涙を流すのを見たのは、彼女が生れて十八になる今日まで、父が母の死床に、最後の言葉をかけた時、たった一度だった。
瑠璃子は、父にそう云われると、止むなく自分の部屋に帰ったが、一人自分の部屋にいると、墨のような不安が、胸の中を一杯に塗り潰してしまうのだった。
夕食の案内をすると、父は、『喰べたくない』