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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
が、あんな獣のような卑しい男を、懲すために、お前の一身を犠牲にしては、黄金を土塊と交換するほど、馬鹿々々しいことじゃないか。」
「だが、お父様!」と、瑠璃子は直ぐ抗弁した。
「相手は、お父様の仰しゃる通り、取るに足りない男には違いありません。が、現在の社会組織では人格がどんなに下劣でも、金さえあれば、帝王のように強いのです。お父様は、相手を『獣のように卑しい男』とお蔑すみになっても、その卑しい男が、金の力で、お父様のような方に、こんな迫害を加え得るのですもの。妾が、戦わなければならぬ相手は荘田勝平と云う個人ではありません。荘田勝平と云う人間の姿で、現れた現代の社会組織の悪です。金の力で、どんなことでも出来るような不正な不当な社会全体です。金さえあれば、何でも出来ると云ったような、その思想です。観念です。妾は、それを破って見たいと思うのです。」
瑠璃子は、処女らしい羞恥心を、興奮のために、全く振り捨てゝしまったように、叫びつゞけた。
父は、子の烈しい勢を、持ち扱ったように、黙って聞いていた。
「それに、お父様! ユージットは、操を犠牲にしましたが、それは相手が、勇猛無比なホロフェルネス、操を捨てゝかからなければ、油断をしなかったからです。