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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
「お嬢さんに、そう云うのだ、俺の手提金庫に小切手帳が入っているから持って来るように。」と命じた。
良心を悪魔に、売り渡した木下と杉野子爵とは、自分達の良心の代価が、幾何になるだろうかと銘々心の裡で、荘田の持つ筆の先に現れる数字を、貪慾に空想しながら、美奈子が小切手帳を持って、入って来るのを待っていた。
「十八の娘にしては、なか/\達筆だ! 文章も立派なものだ!」
荘田は、尚飽かず瑠璃子の手紙に、魂を擾されていた。
が、丁度その同じ瞬間に、瑠璃子の手紙に依って、魂を擾されていたのは荘田勝平丈だけではなかった。
瑠璃子は、杉野子爵に宛てゝ、一通の手紙を書くのと同時に、その息子の杉野直也に対しても、一通の手紙を送った。杉野子爵に対する手紙は、冷たい微笑と堅い鉄のような心とで書いた。直也に送った手紙は、熱い涙と堅い鉄のような心とで書いた。
荘田勝平が、一方の手紙を読んで、有頂天になったと同じに、直也は他の一方の手紙を読んで、奈落に突落されたように思った。
父を恐ろしい恥辱より救い、唐沢一家を滅亡より救う道は、これより外にはないのでございます。……
法律の力を悪用して、善人を苦しめる悪魔を懲しめる手段は、これより外にはないのでございます。