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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

」と、云った。

「私の倅、私の倅がお宅へ伺うことはない。尤も、私にでも用があるのかな。そうじゃありませんか。私に会いたいと云うのじゃありませんか。」

子爵は小間使の方を振り向きながら云った。小間使は首を振った。

「いゝえ! 御主人にお目にかゝりたいと仰しゃるのです。」

「あゝ分った! 杉野さん! 貴君の御子息なら、僕の所へ来る理由が、大にあるのです。殊に今の場合、唐沢のお嬢さんが、私に屈伏しようと云う今の場合、是非とも来なければならない方です。そうだ! 私も会いたかった。そうだ! 私も会いたかった! おい、お通しするのだ。主人もお待ちしていましたと云ってね。貴君方は、別室で待っていたゞくかね。いや、立会人があった方が、結局いゝかな。そうだ! 早くお通しするのだ!」

興奮した熊のように、荘田は卓に沿うて、二三歩ずつ左右に歩きながら、叫んだ。

杉野子爵には、荘田の云った意味が、十分に判らなかった。何の用事があって、自分の息子が、荘田を尋ねて来るのか見当も立たなかった。が、それは兎も角、自分が荘田から、邪しい金を受け取ろうとする現場へ、肉親の子――しかも、その潔白な性格に対しては、親が三目も四目も置いている子が――突然現れて来ることは、いかにも愧しいキマリの悪い事に違いなかった。