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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
「いやあ! 貴君でしたか。いつぞやは大変失礼しました。さあ! 何うか此方へお入り下さい! 丁度、貴君のお父様も来ていらっしゃいますから。」
外面丈は可なり鄭重に、直也を引いた。直也は、その口を一文字に緊きしめたまゝ、黙々として一言も発しなかった。彼は、父の方をなるべく見ないように――それは父に対する遠慮ではなくして、敬虔な基督教徒が異教徒と同席する時のような、憎悪と侮蔑とのために、なるべく父の方を見ないように、荘田の丁度向い側に卓を隔てゝ相対した。
「何う云う御用か、知りませんが、よく入らっしゃいました。貴君があんなに軽蔑なさった成金の家へも、尋ねて来て下さる必要が出来たと見えますね。はゝゝゝゝ。」
荘田は、直也と面と向って立つと、直ぐ挑戦の第一の弾丸を送った。
直也は、それに対して、何かを云い返そうとした。が、彼は烈しい怒りで、口の周囲の筋肉が、ピク/\と痙攣する丈で、言葉は少しも、出て来なかった。
「何う云う御用です。承ろうじゃありませんか。何う云う御用です。」
荘田はのしかゝるように畳かけて訊いた。直也は、心の裡に沸騰する怒りを、何う現してよいか、分らないように、暫らくは両手を顫わせながら、荘田の顔を睨んで立っていたが、突如として口を切った。