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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

瑠璃子が、夫に扶けられて、自動車から宏壮な車寄に、降り立った時、遉にその覚悟した胸が、烈しくときめくのを感じた。単身敵の本城へ乗り込んで行く、刺客のような緊張と不安とを感じた。勝平に扶けられている手が、かすかに顫えるのを、彼女は必死に制しようとした。

瑠璃子が、勝平に従って、玄関へ上がろうとした時だった。其処に出迎えている、多数の召使の前に、ヌッとつッ立っている若者が、急に勝平に縋り付くようにして云った。

「お父さん! お土産だい! お土産だい!」

勝平は、縋り付かれようとする手を、瑠璃子の手前、きまり悪そうに、払い退けながら、

「あゝ分っている、分っている。後で、沢山やるからな。さあ! 此方へおいで。お前の新しいお母様が出来たのだからな。挨拶をするのだよ。」

勝平は、その若者を拉しながら先に立った。若者は、振り向き/\瑠璃子の顔をジロ/\と珍らしそうに見詰めていた。

勝平は先きに立って、自分の居間に通った。

「美奈子も、茲へおいで。」

彼は、娘を呼び寄せてから、改めて瑠璃子に挨拶させた後、勝平はその見るからに傲岸な顔に、恥しそうな表情を浮べながら、自分の息子を紹介した。