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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

「まあ! あんなことを。そんな邪推していらっしゃるの。妾勝彦さんを馬鹿だとか白痴だとか賤しめたことは、一度もありませんわ。あんな無邪気な純な方はありませんわ。それは、少し足りないことは足りないわ。それは、お父様の前でも申し上げねばなりません。でも、あんなに正直な方に、妾初めてお目にかゝりましたのよ。それに妾の云ったことなら、何でもして下さるのですもの。此間、お家が広いので、夜寝室の中に、一人いると何だか寂しく心細くなると、申しますと、勝彦さんは、それなら毎晩部屋の外で番をしてやろうと仰しゃるのですよ、妾冗談だとばかり、思っていますと、一昨夜二時過ぎに、廊下に人の気勢がするので、扉を開けて見ますと、勝彦さんが立っていらっしゃるじゃありませんか。それが、丁度中世紀の騎士が、貴婦人を護る時のように、儼然として立っていらっしゃるのですもの。妾可笑しくもあれば、有難くも思ったわ。妾此の頃、智恵のある怜悧な方には、飽き/\していますの。また、その智恵を、人を苦しめたり陥れたりする事に使う人達に、飽き/\していますのよ。また、人が傷け合ったり陥れ合ったりする世間その物にも、愛想が尽きていますのよ。