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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

こうした場合に、燈火の消えるほど、心細いものはない。女中は闇の中から手探りにやっと、洋燈を探し当てゝ火を点じたが、ほの暗い光は、一層瑠璃子の心を滅入らしてしまった。

暗い燈火の下に蒐まっている瑠璃子と女中達を、もっと脅かすように、風は空を狂い廻り、波は断なしに岸を噛んで殺到した。

風は少しも緩みを見せなかった。雨を交えてからは、有力な味方でもが加わったように、益々暴威を加えていた。風と雨と波とが、三方から人間の作った自然の邪魔物を打ち砕こうとでもするように力を協せて、此建物を強襲した。

ガラ/\と、何処かで物の砕け落ちる音がしたかと思うと、それに続いて海に面している廂が吹き飛ばされたと見え、ベリ/\と云う凄じい音が、家全体を震動した。今迄は、それでも、慎しく態度の落着を失っていなかった瑠璃子もつい度を失ったように立ち上った。

「何うしようかしら、今の裡に避難しなくてもいゝのかしら。」

そう云う彼女の顔には、恐怖の影がアリ/\と動いていた。人間同士の交渉では、烈女のように、強い彼女も、自然の恐ろしい現象に対しては、女らしく弱かった。

女中達も、色を失っていた。