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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
つい一時間前の告白を疑った瑠璃子にも、男子のこうした瀕死の言葉は疑えなかった。瑠璃子の冷たく閉じた心臓にも、それが針のように刺し貫いた。
「あゝ苦しい。切ない! 心臓が裂けそうだ!」
勝平は、心臓を両手で抱くようにしながら、畳の上を、二三回転げ廻った。
「美奈子! 美奈子はいないか!」
彼は、突如苦しそうに、半身を起しながら、座敷中を見廻した。併し美奈子が其処にいる訳はなかった。二三秒間身体を支え得た丈で、またどうと後へ倒れた。
「美奈子さんも直ぐ来ます。電話で呼びますから。」
瑠璃子は、耳許に口を寄せながら、そう云った。
「あゝ苦しい! もういけない! 苦しい! 瑠璃子さん! 頼みます、美奈子と勝彦のこと。貴女は、俺を憎んでいても、子供達は憎みはしないでしょう。貴女を頼むより外はない! 俺の罪を許して子供達を見てやって下さい! 頼みます! 勝彦! 勝彦!」
彼は、そう云いながら、再び身体を起そうとした。愚かなる子に、最後の言葉をかけようとしたのであろう。が、愚なる子は、父の臨終の苦しみを外に、以前のまゝに、ケロリとして立ったまゝ、此場の異常な光景を、ボンヤリと凝視している丈であった。