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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
瑠璃子は、遉に落着きを失わなかった。
「いゝえ! 女中が狼狽えて、そんなことを申したのでございましょう。強盗などとは嘘でございます。お恥かしいことでございますが、つい息子と……」
そう云ったものの、後は続け得なかった。医師は直ぐその場の事情を呑み込んだように、勝平の身体に手をやって、一通検めた。
「何処もお負傷はないのですね。」
「はい! 負傷はないようでございます。」瑠璃子は静かに答えた。
「御心配はありません。何処か打ち所が悪くって気絶をなさったのです。」
医師は事もなげにそう云いながら、その夜目にも白い手を脈に触れた。五秒十秒、医師はじっと耳を傾けていた。それと同時に、彼の眸に、勝平の蒼ざめて行く顔色が映ったのだろう。彼は、急に狼狽したように前言を打ち消した。
「あゝこりゃいけない!」
そう云いながら、彼は手早く聴診器を、鞄の中から、引きずり出しながら、勝平の肥り切った胸の中の心臓を、探るように、幾度も/\当がった。
「あゝこりゃいけない!」
彼は再び絶望したような声を出した。
「いけませんでございましょうか。」
そう訊いた瑠璃子の声にも、深い憂慮が含まれていた。