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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

その間の一週間は、信一郎に取っては、一月も二月もに相当した。彼は、自分がその日曜を待ちあぐんでいるように、夫人がやっぱりその日曜を待ち望んでいて呉れることを信じて疑わなかった。

夫人が、自分を唯一人の真実の友達として、選んで呉れる。夫人と自分との交情が発展して行く有様が、いろ/\に頭の中に描かれた。異性の間の友情は、恋愛の階段であると、夫人が云った。もしそれがそうなったら、何うしたらよいだろう。あの自由奔放な夫人は、屹度云うだろう。

「それが、そうなったって、別に差支はないのよ。」

夫のない夫人はそれで差支がないかも知れない。が、自分は何うしたらいゝだろう。妻のある自分は。結婚して間もない愛妻のある自分は。

信一郎は、そうした取りとめもない空想に頭を悩ましながら、七月の最初の日曜の午後に、夫人を訪ねるべく家を出た。

夫人を訪ねるのも、二度目であった。が、妻を欺くのも二度目であった。

「社の連中と、午後から郊外へ行く約束をしたのでね。新宿で待ち合わして、多摩川へ行く筈なのだよ。」

帽子を持って送って出た静子に、彼は何気なくそう云った。

二

電車に乗ってからも、妻を欺いたと云う心持が、可なり信一郎を苦しめた。