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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

と、云って気軽に立ち上ると、その椅子を、夫人の美しい眼で、命ずるまゝに、夫人の腕椅子の直ぐ傍へ持って来た。

「さあ! お掛けなさいませ。」

そう云って、夫人は信一郎を麾ねいた。孰らかと云えば、小心な信一郎は、多くの先客を押し分けて、夫人の傍近く坐ることが、可なり心苦しかった。彼は、自分の頬が、可なりほてって来るのに気が付いた。

信一郎が椅子に着こうとすると夫人は一寸押し止めるようにしながら云った。

「そう/\。一寸御紹介して置きますわ。この方、法学士の渥美信一郎さん。三菱へ出ていらっしゃる。それから、茲にいらっしゃる方は、――そう右の端から順番に起立していたゞくのですね、さあ小山さん!」

と彼女は傍若無人と云ってもよいように、一番縁側の近くに坐っている、若いモーニングを着た紳士を指した。紳士は、柔順にモジ/\しながら立ち上った。

「外務省に出ていらっしゃる小山男爵。その次の方が、洋画家の永島龍太さん。其の次の方が、帝大の文科の三宅さん、作家志望でいらっしゃる。その次の方が、慶応の理財科の阿部さん、第一銀行の重役の阿部保さんのお子さん。その次の方が日本生命へ出ていらっしゃる深井さん、高商出身の。