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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

」

「ほんとうに長い間お見えになりませんでしたのね。箱根へお出でになったって、新聞に出ていましたが、行らっしゃらなかったの。」

「いや、何処へも行きやしません。」

「それじゃ、やっぱり例の長篇で苦しんでいらしったの。本当に、妾の家へいらっしゃる道を忘れておしまいになったのかと思っていましたの。ねえ! 三宅さん。」

夫人は、三宅と云う学生を顧みた。

「やあ!」

「やあ!」

三宅とその男とは顔を見合して挨拶した。

「本当に、暫らくお見えになりませんでしたね。貴君が、いらっしゃらないと、此処の客間も淋しくていけない。」

三宅は、後輩が先輩に迎合するような、口の利き方をした。

「さあ! 秋山さん! 此方へお掛けなさいませ。本当によい所へ入らしったわ。今貴君に断定を下していたゞきたい問題が、起っていますのよ。」

そう云いながら、今度は夫人自ら、空いた椅子を、自分の傍へ、置き換えた。

「さあ! お掛けなさいませ! 貴君の御意見が、伺いたいのよ。ねえ! 三宅さん!」

信一郎に、説き圧されていた三宅は、援兵を得たように、勇み立った。

「さあ、是非秋山さんの御意見を伺いたいものです。