轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
が、段々家に近づくに従って、恐ろしい事実が、漸く分って来た。何だか見たことのある車台だと云う気がしたのも、無理ではなかった。それは、紛れもなくあの青色大型の、伊太利製の自動車だった。信一郎も一度乗ったことのある、あの自動車だった。そうだ、此の前の日曜の夜に、荘田夫人と同乗した自動車に、寸分も違っていなかった。
夫人が、訪ねて来たのだ! そう思ったときに、信一郎の心は、烈しく打ち叩かれた。当惑と、ある恐怖とが、胸一杯に充ち満ちた。
出先で、妖怪に逢い這々の体で自分の家に逃げ帰ると、その恐ろしい魔物が、先廻りして、自分の家に這入り込んでいる。昔の怪譚にでもありそうな、絶望的な出来事が、信一郎の心を、底から覆してしまった。瑠璃子夫人の美しい脅威に戦いて、家庭の平和の裡に隠れようとすると、相手は、先廻りして、その家庭の平和をまで、掻き擾そうとしている。静かな慎しい家庭と、温和な妻の心をまでも掻き擾そうとしている。
信一郎は、当惑と恐怖とのために、暫くは、道の真中に立ち竦んだまゝ、何うしてよいか分らなかった。その裡に、信一郎の絶望と、恐怖とは、夫人に対する激しい反抗に、変って行った。