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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

」

信一郎の言葉は、可なり顫えを帯びていた。

「おや! 御用事。それじゃ直ぐ承わろうじゃありませんか。妾、またこんな部屋には、一刻もお止まりになるお心はなくなったのだろうと思っていました。」

夫人は、凄いほどに、落着いていた。

信一郎は、蒼白になりながら、懸命に冷静な態度を失うまいとした。

「奥さん! 帰るときが来れば、お指図を待たなくっても帰ります。が、只今伺ったのは、貴女のお手紙の為ばかりじゃないのです。僕がどんなに軽薄な人間でも、一度席を蹴って帰った以上、貴女のお召状丈で、ノメ/\とやっては来ません。」

「おや! それでは、妾はその点でも飛んだ思違いをしていましたのね。」

夫人は、針のような皮肉を含みながら、冷やかに笑った。信一郎はいらだった。

「貴女に申し上ぐべきこと、当然お願いすべき用事があればこそ参ったのです。それが済むまでは、貴女が幾ら帰れと仰しゃったって、帰れません。貴女も一度僕と会った以上、自分の用事丈が、済んだと云って、そう手軽に僕を追い返す権利はありません。」

「大変御尤もな仰せです。それではその用事とかを承わろうじゃありませんか。」