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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

純真な男性の感情を弄ぶことがどんなに危険であるかを伝えて呉れ。弄ぶ女に取っては、それは一時の戯れであるかも知れぬが、弄ばれる男に取っては、それが死であると。奥さん! 貴女は、こう云う話を御存じですか。池の中に多くの蛙が浮んでいると、子供達が来て石を投げ付ける、その時に蛙が何て云ったか御存じですか。蛙はこう云ったのです。貴君方に取って遊戯であることが、我々に取っては死である、と。青木君の死際の云分も、つまりそれなのです。貴女は、青木君の死を単なる奇禍だと思ってはいけません。形は奇禍ですが、心持に於いては立派な自殺です。たゞ自動車の偶然の衝突があの人の死を、二三日早めたのに過ぎないのです。貴女は青木君の死を奇禍だと考えることに依って、貴女の良心を欺いてはなりません。正しく自殺です。而も池の中の蛙が、子供が戯れに投げた石に当って死んだように、貴女が戯れに与えた白金の時計に依って死んだのです。蛙が若し人間としての働きがあったならば、その石を子供に投げ返すように、僕は青木君に代って、此の時計を貴女に投げ返すのです。そうです、貴女の良心に向って投げ返すのです。