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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

考えていると、信一郎は一刻も早く、目的地に着いて初々しい静子の透き通るようなくゝり顎の辺を、軽く撫してやりたくて、仕様がなくなって来た。

『僅か一週間、離れていると、もうそんなに逢いたくて、堪らないのか。』と自分自身心の中で、そう反問すると、信一郎は駄々っ子か何かのように、じれ切っている自分が気恥しくないこともなかった。

が、新婚後、まだ幾日にもならない信一郎に取っては、僅一週間ばかりの短い月日が、どんなにか長く、三月も四月もに相当するように思われた事だろう。静子が、急性肺炎の病後のために、医者から温泉行を、勧められた時にも、信一郎は自分の手許から、妻を半日でも一日でも、手放して置くことが、不安な淋しい事のように思われて、仕方がなかった。それかと云って、結婚のため、半月以上も、勤先を欠勤している彼には休暇を貰う口実などは、何も残っていなかった。彼は止むなく先週の日曜日に妻と女中とを、湯河原へ伴うと、直ぐその日に東京へ帰って来たのである。

今朝着いた手紙から見ると、もうスッカリ好くなっているに違いない。明日の日曜に、自分と一緒に帰ってもいゝと、云い出すかも知れない。