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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
妾との戯恋の一寸した幻滅で、自殺をなさるような方は、男子としての生存的意志を、持っていないと申上げてもいゝのですもの。妾とのいきさつで、自殺なさらなくっても、又なにか別なことで、直ぐ自殺してしまう方ですもの。」
信一郎は、夫人の言葉を聴いている中に、それを夫人の捨鉢な不貞腐の言葉ばかりだとは、聞きながされなかった。彼は、その美しい夫人の裡に、如何なる男性にも劣らないような、鋭い理智と批判とを持った一個の新しい女性、如何なる男性とも、精神的に戦い得るような新しい強い女性を認めたのである。
彼の夫人に対する憎悪は、三度四度目に、又ある尊敬に変っていた。旧道徳の殻を踏み躙っている夫人を、古い道徳の立場から、非難していた自分が、可なり馬鹿らしいことに気が付いた。
夫人の男性に対する態度は、彼女の淫蕩な動機からでもなく、彼女の妖婦的な性格からでもなく、もっと根本的な主義から思想から、萌しているのだと思った。
「妾、男性がしてもよいことは、女性がしてもよいと云うことを、男性に思い知らしてやりたいと思いますの。男性が平気で女性を弄ぶのなら、女性も平気で男性を弄び得ることを示してやりたいと思いますの。