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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

青年は、門の前で、ホンの一瞬の間、佇立した。美奈子は、やっぱり通りがかりに、一寸邸内の容子を軽い好奇心から覗くのではないかと思った。が、佇ずんで一寸何か考えたらしい青年は、思い切ったように、グン/\家の中へ入って行った。ステッキを元気に打ち振りながら。

「お客様ですわ、奥様の。」

女中は、美奈子の前の言葉に答えるように言った。

いかにも、女中の言う通、母の客間を訪う青年の一人に違いないことが美奈子にも、もう明かだった。

「お前、あの方知っているの?」

美奈子は、心の裡の動揺を押しかくすようにしながら、何気なく訊いた。

「いゝえ! 存じませんわ。妾はお客間の方の御用をしたことが、一度もないのでございますもの。きくやなら、きっと存じておりますわ。」

きくやと云うのは、母に従いている小間使の一人だった。

美奈子は、兎に角その青年が、自分の家に出入りしていると云うことを知ったことが、可なり大きい欣びだった。自分の家に出入りしている以上、会う機会、知己になる機会が、幾何でも得られると思うと、彼女の小さい胸は、歓喜のために烈しく波立って行くのだった。が、それと同時に、母が前から、その青年と知り合っていること、その青年とお友達であることが、不思議に気になり出した。