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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

今日なんかもう可なり暑いのですもの。」

「妾、何処だっていゝわ。貴女のお好きなところなら何処だっていゝわ。」美奈子は、慎ましくそう云った。

「軽井沢は去年行ったし、妾今年は箱根へ行こうかしらと思っているの。今年は電車が強羅まで開通したそうだし、便利でいゝわ。」

「妾箱根へはまだ行ったことがありませんの。」

「それだと尚いゝわ。妾温泉では箱根が一番いゝと思うの。東京には近いし景色はいゝし。じゃやっぱり箱根にしましょうね。明日でも、富士屋ホテルへ電話をかけて部屋の都合を訊き合せましょうね。」

そう云って、瑠璃子は言葉を切ったが、直ぐ何か思い出したように、

「そう/\、まだ貴女にお許しを願わなければならぬことがあるの。女手ばかりだと何かに付けて心細いから、男のお友達の方に、一人一緒に行っていたゞこうと思うの。貴女、介意わなくって?」

「介意いませんとも。」美奈子はそう答えた。もし、昨日の美奈子であったら、それをもっと自由に快活に答えることが出来たであろう。が、今の美奈子はそう答えると共に、胸が怪しく擾れるのを、何うともすることが出来なかった。

「温和しい学生の方なの。