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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
若い男性に囲まれながら、彼等を軽く扱らっている夫人の今日の姿は、又なく鮮かだった。青磁色の洋装が、そのスラリとした長身に、ピッタリ合っていた。極楽鳥の翼で飾った帽子が、その漆のように匂う黒髪を掩うていた。大粒の真珠の頸飾りが、彼女自身の象徴のように、その白い滑らかな豊かな胸に、垂れ下っていた。
平素見馴れている美奈子にさえ、今日の母の姿は一段と美しく見えた。駅の広間に渦巻いている群衆の眼も、一度は必ず夫人の上に注がれて、彼等が切符を買ったり手荷物を預けたりする忙がしい手を緩めさせた。
美奈子は、母を囲む若い男性を避けて、一間ばかりも離れて立っていた。彼女は、最初その男達の間に、あの青年のいないのを知った。一寸期待が外れたような、安心したような気持になっていた。その内に、母を見送りの男性は、一人増え二人加った。が、かの青年は何時まで待っても見えなかった。その男性達は、美奈子の方には、殆ど注意を向けなかった。たゞ美奈子の顔を、外ながら知っている二三人が軽く会釈した丈だった。
「奥さん! まだ判っていることがあるのですがね。」
暫くしてから、紺の背広を着た会社員らしい男が、おず/\そう云った。