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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
伊太利製らしい、優雅な自動車の扉が、運転手に依って排せられた。
会葬者の注視を引いた事などには、何の恐れ気もないように、翼を拡げた白孔雀のような、け高さと上品さとで、その踏段から地上へと、スックと降り立ったのは、まだうら若い一個の女性だった。降りざまに、その面を掩うていた黒い薄絹のヴェールを、かなぐり捨てゝ、無造作に自動車の中へ投げ入れた。人々の環視の裡に、微笑とも嬌羞とも付かぬ表情を、湛えた面は、くっきりと皎く輝いた。
白襟紋付の瀟洒な衣は、そのスラリとした姿を一層気高く見せていた。彼女は、何の悪怯れた容子も見せなかった。打ち並ぶ名士達の間に、細く残された通路を、足早に通り抜けて、祭壇の右の婦人達の居並ぶ席に就いた。
会葬者達は、場所柄の許す範囲で、銘々熱心な眼で、此の美しい無遠慮な遅参者の姿を追った。が、そうした眼の中でも、信一郎のそれが、一番熱心で一番輝いていたのである。
彼は、何よりも先きに、此女性の美しさに打たれた。年は二十を多くは出ていなかったゞろう。が、そうした若い美しさにも拘わらず、人を圧するような威厳が、何処かに備わっていた。
信一郎は、頭の中で自分の知っている、あらゆる女性の顔を浮べて見た。