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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
「じゃ、当分御結婚はなさらない訳ですね。」
青年は、何故だか執拗に再びそう訊いた。
「まだ、本当に考えて見たこともございませんの。」
美奈子は、益々狼狽しながらも、ハッキリと口では、打ち消した。が、青年が何うしてそうした問題を繰り返して訊くのかと思うと、彼女の顔は焼けるように熱くなった。胸が何とも云えず、わくわくした。彼女は、相手が何うして自分の結婚をそんなに気にするのか分らなかった。が、彼女がある原因を想像したとき、彼女の頭は狂うように熱した。
彼女は、熱にでも浮されたように、平生の慎みも忘れて云った。
「結婚なんて申しましても、妾のようなものと、妾のような、何の取りどころもないようなものと。」
彼女の声は、恥かしさに顫えていた。彼女の身体も恥かしさに顫えていた。
七
美奈子の声は、恥かしさに打ち顫えていたけれども、青年は可なり落着いていた。余裕のある声だった。
「貴女なんかが、そんな謙遜をなさっては困りますね。貴女のような方が結婚の資格がないとすれば、誰が、どんな女性が結婚の資格があるでしょう。貴女ほど――そう貴女ほどの……」
そう云いかけて、青年は口を噤んでしまった。