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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

」

青年の声は、だん/\低くなって来た。が、その声に含まれている熱情は、だん/\高くなって行くらしかった。しんみりとした調子の中に、人の心に触れる力が籠っていた。自分の名が、青年の口に上る度に、美奈子は胸をとゞろかせながら、息を潜めて聞いていた。

母が何とも答えないので、青年は又言葉を続けた。

「返事を待て、返事を待って呉れと、仰しゃる。が、その返事がいゝ返事に定まっていれば、五年七年でも待ちます。が、もし五年も七年も待って、その返事が悪い返事だったら、一体何うなるのです。僕は青春の感情を、貴女に散々弄ばれて、揚句の端に、突き離されることになるのじゃありませんか。貴女は、僕を何ちらとも付かない迷いの裡に、釣って置いて、何時までも何時までも、僕の感情を弄ぼうとするのではありませんか。僕は、貴女のなさることから考えると、そう思うより外はないのです。」

「まさか、妾そんな悪人ではないわ。貴君のお心は、十分お受けしているのよ。でも、結婚となると妾考えるわ。一度あゝ云う恐ろしい結婚をしているのでしょう。妾結婚となると、何か恐ろしい淵の前にでも立っているようで、足が竦んでしまうのです。