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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
」
彼女は、美奈子を抱きしめるように、掩いながら、耳許近く、子供でもすかすように云った。
平素なら、母の一言半句にも背かない美奈子であるが、その夜の彼女の心は、妙にこじれていた。彼女は、黙って返事をしなかった。
「何うしても、行くのなら、妾も一緒に行くわ。青木さんは、部屋で待っていて下さいね。ねえ! 美奈さん、それでいいでしょう。」
そう云いながら、瑠璃子は早くも、先に立って歩もうとした。
美奈子は、一寸進退に窮した。母と一緒に郵便局へ行っても、出すべき手紙がなかった。それかと云って、今まで黙っていながら、今更行くことをよすとも、言い出しかねた。
その裡に、青年は此の場を避けることが、彼にとって、一番適当なことだと思ったのだろう。何の挨拶もしないで、建物の中へ入ると、階段を勢よく馳け上ってしまった。
母一人になると、美奈子の張り詰めていた心は、弛んでしまって、新しい涙が、頬を伝い出したかと思うと、どんなに止めようとしても止まらなかった。到頭、しく/\と声を立てゝしまった。
美奈子が泣き始めるのを見ると、瑠璃子は、心から駭いたらしかった。美奈子の身体を抱えながら叫ぶように云った。