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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
青年の顔に、絶望の色が、段々濃くなって行った。彼の眼は、恨めしげに光り初めた。
到頭、夜が来た。瑠璃子と青年との間に、交された約束の夜が来た。
美奈子は、夜が近づくに従って、青年が自分の存在を、どんなに呪っているかも知れないと思うと部屋にいることが、何うにも苦痛になって来た。
晩餐の食堂から、帰るときに、美奈子は、そっと母達から離れて、自分一人ホテルの図書室へでも行こうと思った。そうすれば、青年は彼の希望通り、母とたった二人限りで、散歩に行くことが出来るだろう。母も、自分に何の気兼なしに青年とたった二人、散歩に出ることが出来るだろう。
美奈子は、そう思いながら、そっと母達から離れる機会を待っていた。が、母は故意にやっていると思われるほど、美奈子から眼を離さなかった。美奈子は、仕方なしに、一緒に部屋へ帰って来た。
部屋に帰ってから、暫くの間、瑠璃子は黙っていた。五分十分経つに連れて、青年がじり/\し初めたことが、美奈子の眼にも、ハッキリと判った。而も、青年がいら/\していることが、自分がいるためであると思うと、美奈子は何うにも、辛抱が出来なかった。