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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

三人は、それ/″\に、いつもよりは、少しく身拵を丁寧にした。

「往きと帰りは、電車にしましょうね。歩くと大変だから。」

瑠璃子は、そう云いながら、一番に部屋を出た。青年も美奈子も、黙ってそれに続いた。

三人が、ホテルの玄関に出て、ボーイに送られながら、その階段を降りようとしたときだった。暮れなやむ夏の夕暮のまだほの明るい暗を、煌々たる頭光で、照し分けながら、一台の自動車が、烈しい勢で駈け込んで来た。

美奈子は、塔の沢か湯本あたりから、上って来た外人客であろうと思ったので、あまり注意もしなかった。

が、美奈子と一緒に歩いていた母は、自動車の中から、立ち現われた人を見ると、急に立ち竦んだように目を眸った。いつもは、冷然と澄している母の態度に、明かな狼狽が見えていた。夕暗の中ではあったが、美しい眼が、異様に光っているのが、美奈子にも気が付いた。

美奈子も、駭いて相手を見た。母をこんなに駭かせる相手は、一体何だろうかと思いながら。

一条の光

一

相手は、まだ三十になるかならない紳士だった。金縁の眼鏡が、その色白の面に光っていた。純白な背広が、可なりよく似合っていた。