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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
「先夜って、何時のことです。」青年の声が、だん/\緊張した。
「お忘れになったの? 一昨日の晩のことですよ。」
青年が色を変えて駭いたことが、美奈子にもハッキリと感ぜられた。美奈子でさえ、あまりの駭きのために、胸が潰れてしまった。母は、果して一昨日の夜のことを、美奈子の前で話そうとしているのかしら、そう思った丈で、美奈子の心は戦いた。
「一昨日の晩!」青年の声は、必死であった。彼は一生懸命の努力で続けて云った。
「一昨日の晩? 何か特別に貴女とお話をしたでしょうか。」
必死に、逃路を求めているような青年の様子が、可なり悲惨だった。美奈子は、他人事ならず、胸が張り裂けるばかりに、母が何と云い出すかと待っていた。
「お忘れになったの。」
瑠璃子は、静に冷たく云った。冗談を云っているのでもなければ、揶揄っているのでもなければ、じらしているのでもなかった。彼女も、今夜は別人のように真面目であった。
「忘れる? 一昨日の晩!」青年は首を傾げる様子をした。が、彼の態度は如何にも苦しそうであった。「僕には、ちっとも解りません。一昨日の晩、僕が何か申上げたでしょうか。」
青年の声は、わな/\と顫えた。