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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

母の心持は、もっと露骨になって来た。

「青木さん。貴君が、妾と結婚なさろうなんて、それは一時の迷いです。貴君のお若い心の一時の出来心です。貴君には妾の心が少しも分っていないのです。いゝえ、妾の本体が少しも分っていないのです。妾の心が、どんなに荒んでいるかそれが貴君には、少しも分っていないのです。妾が、貴君を本当に愛しているかどうかさえ、貴君には分らないのです。そう/\、ワイルドの警句に、『結婚の適当なる基礎は相方の誤解なり。』と云う皮肉な言葉がありますが、貴君の妾に対する、結婚申込なんか、本当に貴君の誤解から出ているのです。」

青年には、瑠璃子の言葉などは、少しも耳に入っていないようだった。彼は、烈しい怒のために、口が利けなくなったように、たゞ身体を顫わせている丈だった。

が、そんなことは少しも意に介せないように、瑠璃子は落着いた口調で、話しつゞけた。

「貴君は、妾の心持が分らないばかりでなく、貴君に対する誰の心持も分っていないのです。貴君には、まだ、本当に人の心が分らないのです。真珠のような美しい――いゝえ、どんな宝石にも換えがたいような、美しい心を持った処女が、貴君に恋しても、貴君には、それが分らないのです。