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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

母の白い寝衣、白いシーツ、白い毛布に、夜目には赤黒く見える血潮が、ベタ/\と一面に浸んでいる。

「あっ!」

美奈子は、一眼見ると床の上に、よろめきながら打ち倒れた。が、母を気遣う心が、直ぐ彼女を起ち上らせた。

「お母様! しっかりなさいませ!」

彼女は、そう叫びながら、母に縋り付いた。致命の傷を負いながら、彼女は少しも取り乱した様子はなかった。右の脇腹の傷口を、両手でじっと押えながら、全身を掻きむしるほどの苦痛を、その利かぬ気で、その凜々しい気性で、じっと堪えているのだった。

彼女のかよわい肉体の血は、彼女が抑えている両手の間から、惜しげもなく流れ出しているのだった。

美奈子も一生懸命だった。自分の寝台のシーツを取ると、それを小さく引き裂いて、母の傷口を幾重にも幾重にもくゝった。

「お母様! 気を確になさいませ。直ぐ医者を呼びますから。」

彼女は、母の耳元に口を寄せて、必死に呼んだ。それが、耳に入ったのだろう、母は、かすかに頭を動かした。大理石のように、光沢のあった白い頬は、蒼ざめて、美しい眼は、にぶい光を放ち、眉は釣り上がり、唇は刻一刻紫色に変っていた。