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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

美奈子は、顫える声で答えた。

「何処へ行かれたか分りませんの。あの晩からずうっと分りませんの。」

が、瑠璃子は、美奈子の表情で凡てを悟ったらしかった。寂しい微笑らしい影が、その唇のほとりに浮んだ。

「美奈さん、本当を云って下さい。妾覚悟していますから。どうせ助からないのですから。」

美奈子は、何とも口が利けなかった。

「自首したの?」

美奈子は、首を振った。瑠璃子の衰えた顔に、絶望的な色が動いた。

「じゃ、自殺?」

美奈子は、黙ってしまった。彼女の舌は、釘付けられたように動かなかった。

「そう! 妾、そうだと思っていたの。でも今度丈は、妾悪意はなかったの。」

そう云いながら、瑠璃子は目を閉じた。美奈子に凡てが判っていた。母は、美奈子に対する義理として、青年をあれほど、露骨に斥けたのだった。美奈子に対する彼女の真心が、彼女を、この恐ろしい結果に導いたのだと云ってもよかった。そう思うと、美奈子は身も世もないような心持がした。

日暮に近づくに従って、瑠璃子の容態は、険悪になった。熱が、反対にぐん/\下って行った。呼吸が――それも何の力もない――愈々せわしくなって行った。