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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

美奈子は、母に対する新しい感激の涙に咽びながら、隣室にいた直也を呼ぶと、黙ってその写真と肌襦袢とを示した。

暫らく、それを見詰めていた直也は、溢れ出ずる涙が、美奈子の手前一寸は支えていたが、到頭堪えきれなくなったと見え、男泣きに泣き出してしまった。

*        *        *

青木稔と瑠璃子との死に就いて、都下の新聞紙は、その社会部面の過半を割いて、いろ/\に書き立てた。が、そのどれもが、瑠璃子夫人を男の血を吸う、美しき吸血魔とすることに一致した。中には、夫人の死を、妖婦カルメンの死に比しているものもあった。夫人の華麗奔放、放縦不羈の生活を伝聞していた人々は、新聞の報道を少しも疑わなかった。夫人の美しさを頌えると同時に、夫人の態度を非難する嵐のような世評の中に在って、夫人の本当の心、その本当の姿を知っているものは、美奈子と直也の外にはなかった。

が、世の中の千万人から非難されようとも、彼女がこの世の中で愛した、たった二人の男性と女性とから、理解されていることは、大輪の緋牡丹の崩るゝ如く散り去った彼女に取って、さぞ本望であっただろう。