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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
「私此時計に心覚えがございますの。持主の方も存じておりますの。お名前は、一寸申上げ兼ますが、ある子爵の令嬢でいらっしゃいますわ。でも、私あの方と青木さんとが、こうした物を、お取り換しになっていようとは、夢にも思いませんでしたわ。屹度、誰方にも秘密にしていらしったのでございましょう。だから青木さんは臨終の時にも、遺族の方には知られたくなかったのでございましょう。道理で見ず知らずの貴方にお頼みになったのでございますわ。その令嬢と、愛の印としてお取り換しになったものを、遺品としてお返しになりたかったのでは、ございませんかしら。」
夫人は、明瞭に流暢に、何のよどみもなく云った。が、何処となく力なく空々しいところがあったが、信一郎は夫人の云うことを疑う確な証拠は、少しもなかった。
「私も、多分そうした品物だろうとは思っていたのです。それでは、早速その令嬢にお返ししたいと思いますが、御名前を教えていたゞけませんでしょうか。」
「左様でございますね。」と、夫人は首を傾げたが、直ぐ「私を信用していたゞけませんでしょうか、私が、女同士で、そっと返して上げたいと思いますのよ。