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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

人の心を浮き立たすような笛や鼓の音が、楓の林の中から聞えている。小松の植込の中からは、其処に陣取っている、三越の少年音楽隊の華やかな奏楽が、絶え間なく続いている。拍子木が鳴っているのは、市村座の若手俳優の手踊りが始まる合図だった。それに吸い付けられるように、裾模様や振袖の夫人達が、その方へゾロ/\と動いて行くのだった。

勝平は、そうした光景や、物音を聞いていると、得意と満足との微笑が後から後から湧いて来た。自分の名前に依って帝都の上流社会がこんなに集まっている。自分の名に依って、大臣も来ている。大銀行の総裁や頭取も来ている。侯爵や伯爵の華族達も見えている。いろ/\な方面の名士を、一堂の下に蒐めている。自分の名に依って、自分の社会的位置で。

そう考えるに付けても、彼は此の三年以来自分に振りかゝって来た夢のような華やかな幸運が、振り顧みられた。

戦争が始まる前は、神戸の微々たる貿易商であったのが、偶々持っていた一隻の汽船が、幸運の緒を紡いで極端な遣繰りをして、一隻一隻と買い占めて行った船が、お伽噺の中の白鳥のように、黄金の卵を、次ぎ次ぎに産んで、わずか三年後の今は、千万円を越す長者になっている。