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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
彼は一寸した好奇心を唆られながら、暫らくの伴侶たるべき人の出て来るのを、待っていた。
三分ばかり待った後だったろう。やっと、交渉が纏ったと見え、大男はニコ/\笑いながら、先きに立って待合所から立ち現れた。その刹那に、信一郎は大男の肩越に、チラリと角帽を被った学生姿を見たのである。彼は同乗者が学生であるのを欣んだ。殊に、自分の母校――と云う程の親しみは持っていなかったが――の学生であるのを欣んだ。
「お待たせしました。此の方です。」
そう云いながら、大男は学生を、信一郎に紹介した。
「御迷惑でしょうが。」と、信一郎は快活に、挨拶した。学生は頭を下げた。が、何にも物は云わなかった。信一郎は、学生の顔を、一目見て、その高貴な容貌に打たれざるを得なかった。恐らく貴族か、でなければ名門の子弟なのだろう。品のよい鼻と、黒く澄み渡った眸とが、争われない生れのけ高さを示していた。殊に、け高く人懐しそうな眸が、此の青年を見る人に、いゝ感じを与えずにはいなかった。クレイヴネットの外套を着て、一寸した手提鞄を持った姿は、又なく瀟洒に打ち上って見えた。
「それで貴君様の方を、湯河原のお宿までお送りして、それから引き返して熱海へ行くことに、此方の御承諾を得ましたから。