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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

「でも、お招ばれを受けていて、悪口を云うのは悪いことよ。そうじゃなくって。」

令嬢は、右の手に持っている華奢な象牙骨の扇を、弄りながら、青年の顔を見上げながら、遉に女らしく云った。

「いや、もっと云ってやってもいゝのですよ。」と、青年はその浅黒い男性的な凜々しい顔を、一層引き緊めながら、「第一華族階級の人達が、成金に対する態度なども、可なり卑しいと思っているのですよ。平生門閥だとか身分だとか云う愚にも付かないものを、自慢にして、平民だとか町人だとか云って、軽蔑している癖に、相手が金があると、平民だろうが、成金だろうが、此方からペコ/\して接近するのですからね。僕の父なんかも、何時の間にか、あんな連中と知己になっているのですよ。此間も、あんな連中に担がれて、何とか云う新設会社の重役になるとか云って、騒いでいるものですから、僕はウンと云ってやったのですよ。」

「おや! 今度は、お父様にお鉢が廻ったのですか。」女は、青年の顔を見上げて、ニッコリ笑った。

「其処へ来ると、貴女のお父様なんか立派なものだ。何処へ出しても恥かしくない。いつでも、清貧に安んじていらっしゃる。