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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

「いや、お若いときは、金なんかと云って、よく軽蔑したがるものです。私なども、その覚えがあります。が、今にお判りになりますよ。金が、人生に於てどんなに大切であるかが。」

勝平は、出来る丈高飛車に、上から出ようとした。が、青年は少しも屈しなかった。

「僕などは、そうは思いません。世の中で、高尚な仕事の出来ない人が、金でも溜めて見ようと云うことに、なるのじゃありませんか。僕は事業を事業として、楽しんでいる実業家は好きです。が、事業を金を得る手段と心得たり、又得た金の力を他人に、見せびらかそうとするような人は嫌いです。」

もう、其処に何等の儀礼もなかった。それは、言葉で行われている格闘だった。青年の顔も蒼ざめていた。勝平の顔も蒼ざめていた。

「いや、何とでも仰しゃるがよい。が、理窟じゃありません。世の中のことは、お坊ちゃんの理想通に行くものではありません。貴君にも金の力がどんなに恐ろしいかが、お判りになるときが来ますよ。いや、屹度来ますよ。」

勝平は、その大きい口を、きっと結びながら青年を睨みすえた。が、青年の直ぐ傍に、立ち竦んだまゝ、黙っている彫像のような姿に目を転じたとき、勝平の心は、再びタジ/\となった。