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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

十三

彼は、眼に見えない烈しい力の動いて行った迹でも辿るようにして、自分の小さな智慧や力でそれをどうすることも出来なかったことを考えて見た時は、もう一度この甲板の上に立たせられた自分そのものを不思議にさえ思った。

船は次第に葡萄牙南端の沖合からも遠ざかりつつあった。往きのスエズ経由とも違い、この還りの船旅は遠く南亜弗利加の果を廻り、赤道を二度も越さねば成らない。その海上から喜望峯まで五千四百浬以上もあった。

十三

五十五日の長い船旅の後、四月の末に巴里を辞し五月に入って倫敦を発って来た岸本は漸く七月の初めになって神戸の港に辿り着いた。

「神戸へ着く晩は眠るまい。皆起きていよう」

そんな申合せをするほど楽みにして遠くから港の燈火を望んで来た船客一同と共に、岸本は一夜を和田岬の燈台の附近に送った上で、翌朝の検疫を済ましてから艀に移った。新嘉坡以来船では俄に乗客を加えたから、その朝一緒に上陸する男女の同胞も可成多かった。

しばらく岸本は牧野と二人で税関の側に時を送った。二人はまだ懐しい海岸の土の上に自分等を見つけたばかりの旅行者の姿のままであった。船の入港を知って、上陸者を迎えようとする人達が波止場に集って来た。