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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
十七
十七
夜汽車で京都を発った岸本は翌日の午後になって品川の停車場を望んだ。彼は自分の旅の間に完成されたという東京駅をも見たいとは思い、ひょっとするとそこに自分を出迎えていてくれる人もあろうかと気遣ったが、しかし品川まで行けば留守宅は近かった。旅の荷物も品川で受取ることにしてあった。彼は東京駅まで乗らずに、その停車場で降りた。
かねて東京に着く日取もわざと知らせなかった留守宅の人達が、そんな時に岸本の独りで悄然と帰って来たことを知ろう筈もなかった。果して停車場の構内には彼を出迎える子供等の影さえも見えなかった。彼は停車場の出口のあたりを歩いて見た。靴のまま堅い土を踏みしめ踏みしめして見た。そうして荷物の受取れるのを待った。その乗降の客も少い建築物の前に立って見て、今更のように彼は遠く旅して帰って来たことを思った。この寂しい入京は、おのずと頭の下るような自分の長旅の終りに適わしいとも思った。
その時の彼は苦しいほど疲れていることなぞを忘れてしまった。頼んだ辻待の車が来た。荷物も既に別の車の上に積まれた。間もなく彼を乗せた車は品川から高輪へ通う新開の道路について、右へ動き左へ動きしながら長い坂を登って行った。