轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
百四十
この岸本の言葉を聞いて、輝子は苦笑いしながら香ばしい茶のにおいを嗅いでいた。
「どれ、婆やさんとも階下で少しお話して」
と言って輝子は二階から降りて行った。
輝子が渋谷をさして帰った後、岸本は独りで新しい書斎を歩いて見た。その時になって見ると、眼に見えない鎖に繋がれていなければ成らないようなことも、こそこそ自分を隠さなければ成らないようなことも、そういうことは何も無かった。彼は自分が広々とした自由な世界に出て来たことを感ずるばかりでなく、節子にまでその時がやって来たことを心ひそかに想像して見た。彼女はもうそんなに遠かった。しかし又、そんなに近かった。
百四十
「わが心にあらず、御心のままに。
節子
捨吉様
心からの信頼をもって遠い旅に上る身の幸を思い、そのよろこびをここに残してまいります」
節子が谷中から送ってよこしたこの手紙が岸本の許に届いた。最早彼女が東京を出発するという十一月の朔日も来た。岸本はこの手紙を繰返し読んで見て、彼女と共に送った年月の間のことを振返って見る気に成った。丁度あの夕方の小枝に集まるがやがやとした鳥の声が沈まって行って一番最後に残るものは唯一つの小鳥の声であったという歌の文句のように、泣いたり笑ったりしたことも沈まって行って、愛のまことだけが残る時も来るだろう。