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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
三十四
若い人達からも手紙を貰った。その中には、「母親のない幼少い子供を控えながら遠い国へ行くというお前の旅の噂は信じられなかった。お前は気でも狂ったのかと思った。それではいよいよ真実か」という意味のことを書いて寄してくれた人もあった。こうした人の噂は節子の小さな胸を刺激せずには置かなかった。諸方から叔父の許へ来る手紙、遽かに増えた客の数だけでも、急激に変って行こうとする彼女の運命を感知させるには充分であった。彼女は叔父に近く来て、心細そうな調子で言出した。
「叔父さんはさぞ嬉しいでしょうねえ――」
叔父の外遊をよろこんでくれるらしいこの節子の短い言葉が、あべこべに名状しがたい力で岸本の心を責めた。何か彼一人が好い事でもするかのように。頼りのない不幸なものを置去りにして、彼一人外国の方へ逃げて行きでもするかのように。
「叔父さんが嬉しいか、どうか――まあ見ていてくれ」
と岸本は答えようとしたが、それを口にすることすら出来なかった。彼は黙って姪の側を離れた。
三十四
叔父を恐れないように成ってからの節子の瞳は、叔父に対する彼女の強い憎みを語っているばかりでも無かった。