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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

五

瑠璃子! お前には、父さんの心持は解るだろう。お前丈は、俺の心持は解るだろう。お前が男であったら、屹度お父さんの志を継いで呉れるだろうとは、平生思っているのだが。」父は元気に云った。が、声にも口調にも力がなかった。

瑠璃子は、それには何とも答えなかった。が、瑠璃子の胸に、一味焼くような激しい気性と、父にも兄にも勝るような強い意志があることは、彼女の平生の動作が示していた。それと同じように、貴族的な気品があった。昔気質の父が時々瑠璃子を捕えて『男なりせば』の嘆を漏すのも無理ではなかった。

まだ父が、何か云おうとする時であった。邸前の坂道を疾駆して馳け上る自動車の爆音が聞えたかと思うと、やがてそれが門前で緩んで、低い警笛と共に、一輛の自動車が、唐沢家の古びた黒い木の門の中に滑り入った。

五

父子の悲しい淋しい緊張は、自動車の音で端なく破られた。瑠璃子は、もっとこうしていたかった。父の気持も訊き、兄に対する善後策も講じたかった。彼女は、自分の家の恐ろしい悲劇を知らず顔に、自動車で騒々しく、飛び込んで来る客に、軽い憎悪をさえ感じたのである。

老婢は、何かに取り紛れているのだろう、容易に取次ぎには出て来ないようだった。