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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
五
「旦那! 旦那! 相手は何うしただ。強盗ですか。何方へ逃げました。」
老人の別荘番は、主人の敵を取りたいような意気込で訊いた。
勝平はその大きい声が、消えかゝる聴覚に聞えたのだろう、口をモグ/\させ初めた。
「何でございますか。何でございますか。」
瑠璃子も、勝平を励ますために、そう叫ばずにはいられなかった。
その時に、室の薄暗い一隅で、何者とも知れずカラ/\と悪魔の嗤うように声高く笑った。
五
カンテラの光の届かない部屋の一隅から、急にカラ/\と頓狂に笑い出す声を聴くと、元気のある度胸の据った喜太郎迄が、ハッと色を変えた。村田銃の方へ差し延した左の手が、二三度銃身を掴み損っていた。勝気な瑠璃子の襟元をも、気味の悪い冷たさが、ぞっと襲って来た。
「誰だ! 誰だ!」
喜太郎は狼狽えながら、しわがれた声で闇の中の見知らぬ人間を誰何した。が、相手はまだ笑い声を収めたまゝ、じっとしている。
「誰だ! 誰だ! 黙っていると、射ち殺すぞ!」
相手が黙っているので、勢いを得た喜太郎は、村田銃を取り上げながら、その方へ差し向けた。
暗い片隅に蹲まっている人間の姿が、差し向けられたカンテラの灯で、朧ろげながら判って来た。