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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

箱根行

一

いろ/\な用事をして貰うのにいゝわ。」

瑠璃子は、いかにもその学生を子供扱いにでもしているような口調で云った。

学生と聴くと、美奈子の胸は更に烈しく波立った。押え切れぬ希望と妙な不安とが、胸一杯に充ち満ちた。

箱根行

一

「御機嫌よく行ってらっしゃいませ。」

玄関に並んだ召使達が、口を揃えて見送りの言葉を述べるのを後にして、美奈子達の乗った自動車は、門の中から街頭へ、滑かにすべり出した。

乾燥した暑い日が、四五日も続いた七月の十日の朝だった。自動車の窓に吹き入って来る風は、それでも稍涼しかったが、空には午後からの暑気を思わせるような白い雲が、彼方此方にムク/\と湧き出していた。

美奈子は、母と並んで腰をかけていた。前には、母の気に入りの小間使と自分の附添の女中とが、窮屈そうに腰をかけていた。

美奈子は、母から箱根行のことを訊かされてから、母が一緒に伴って行くと云う青年のことが、絶えず心にかゝっていた。が、母の方からはそれ以来、青年のことは何とも口に出さなかった。母が口に出さない以上、美奈子の方から切り出して訊くことは、内気な彼女には出来なかった。

出立の朝になっても、青年の姿は見えなかった。